キリコは金沢のお墓参り(お盆)の文化!意味・由来や書き方も紹介
金沢独特のお盆の風習、「キリコ」をご存知ですか?日本には、各地にお盆のお墓参りの風習がありますが、「キリコ」は、金沢やその周辺の地域で昔から受け継がれている独特の習慣です。歴史の街金沢の、お盆のお墓参りの習慣、「キリコ」について、詳しくご紹介します。
目次
金沢独特のお盆・お墓参りの文化「キリコ」について紹介!
日本には、お盆にお墓参りをするときに独特の風習がある地域がたくさんあります。古都金沢もその一つ。石川県でも、金沢とその周辺の限られて地域でのみ受け継がれている「キリコ」文化についてご紹介します。
金沢のお盆・お墓参りの文化「キリコ」の意味・由来は?
金沢出身の人にとっては、当たり前でなじみ深い「キリコ」ですが、それ以外の地区に暮らす人にとっては、見たことも聞いたこともない独特の風習です。金沢のお盆の風物詩、「キリコ」とはいったいどんなものなのでしょうか。
「キリコ」の意味や由来、目的など、金沢の伝統文化「キリコ」について詳しく解説していきます。
死後の世界に帰る霊をお送りする
金沢とその周辺の地域では、お盆近くになると頻繁に「キリコ」を目にするようになります。スーパーでも売られているほどで、金沢では、「キリコ」は、お盆のお墓参りに欠かせないアイテムです。
「キリコ」は、お墓の前に吊るす、いわば提灯のようなものですが、最大の役割はお盆の最終日に待っています。お寺での法要を終えた後、お墓に吊るされた「キリコ」には、一一斉に火が灯され、お盆の送り火が焚かれます。
墓地を埋め尽くすたくさんの「キリコ」の送り火に見送られ、お盆に戻ってこられたご先祖様の御霊は、あちらの世界へとお帰りになります。このように、「キリコ」は、ご先祖様の霊を見送る役割を担っています。
木や紙でできた箱のようなものを吊るす
「キリコ」とは、木や紙でできた箱のようなもので、お盆のお墓参りのときに、中にろうそくを立てて、お墓の前に吊るします。お盆が近くなると、金沢の墓地では、それぞれのお墓の前に「キリコ」を吊るすための竹で組んだ簡単な鳥居のようなものが一斉に建ち並びます。
なぜ、金沢ではお盆のお墓参りに「キリコ」を吊るすのでしょうか?「キリコ」の起源や、金沢で「キリコ」を吊るすようになったきっかけなどは、正確にはわかっていません。それどころか、名前の由来すらわかりません。
一説によると、お盆にご先祖様の御霊をお迎えする迎え火を保護するためのものだったとされて、一般的な盆提灯が、加賀百万石の城下町として栄えた金沢の、洗練された文化と美意識によって、独特の進化を遂げたと考えられています。
また、「キリコ」には、ちゃんとお墓参りにきましたよという、印のような役割もあるそうで、お盆になっても「キリコ」が吊るされないお墓は、誰からもお墓参りをしてもらえない寂しいお墓と思われてしまいます。
金沢でキリコを吊るす時期はいつ頃?
「キリコ」は、お盆のお墓参りの習慣なので、当然「キリコ」を吊るすのは、お盆の時期です。お盆の時期と聞くと、全国的には8月15日前後の旧盆と言われる時期をイメージする人が多いでしょう。お盆の帰省ラッシュもそのあたりです。
しかし、金沢では、旧盆より1か月ほど早い、7月15日前後の新盆にお盆を迎えます。これは、明治政府によって太陽暦が採用された際、それまで旧暦の7月に迎えていたお盆を、新暦の7月に迎えるようになったためです。
7月にお盆を迎える地域は決して珍しくはなく、金沢以外にも、東京や横浜なども、新暦の7月にお盆を迎えます。
金沢で使われているキリコの種類3選!
金沢のお盆の風物詩「キリコ」。浄土真宗の信仰が盛んな土地柄からか、念仏が記された「キリコ」もよく見かけます。
「キリコ」には、いろいろな種類がありますが、伝統的な「キリコ」や、利便性に富んだ「キリコ」、子供を供養する「キリコ」など、金沢でよく使われている「キリコ」について、ご紹介します。
昔からある定番のキリコ「箱キリコ」
従来の「キリコ」は、木枠に紙を貼り、中にろうそくを立てる箱型の提灯で、「箱キリコ」と呼ばれます。送り火を灯された「箱キリコ」は、幻想的で美しく、厳粛なムードを醸し出します。
値段は1つ200円~250円ほどで、今でも金沢で「キリコ」と言えば、この「箱キリコ」のことを思い浮かべる人が多いです。
ただし、周りを紙で覆っているため、雨や強風には弱く、悪天候だと破損する場合があるので注意が必要です。
雨に強くて持ち運びしやすい「板キリコ」
近年売り上げを伸ばしているのが、「板キリコ」と呼ばれる「キリコ」です。2002年に割り箸メーカーが考案した板状の「キリコ」で、持ち運びしやすく丈夫で、雨風にも強いと人気を集めています。値段も1つ100円~200円と手ごろです。
しかし、「板キリコ」は、板状のため中にろうそくを立てることはできす、「送り盆に送り火を焚いてご先祖様をお見送りする」という従来の「キリコ」の役割を果たすことはできません。
子供を供養する「花キリコ」
ご先祖様をお迎えし共に過ごすお盆ですが、幼くして亡くなってしまった子どもの霊を迎える場合もあります。そんな子どもの霊を慰めるための「キリコ」は、「花キリコ」と呼ばれ、紙に花の絵が描かれています。
値段は600円前後と少々高めですが、子どもを想う親の気持ちには値段は関係ありません。
キリコの書き方について紹介!
盆提灯のかわりに発展した金沢の「キリコ」。買ってきてそのままお墓の前に吊るせばいいというわけではありません。「箱キリコ」なら紙の部分に、「板キリコ」は板の裏に、何か書くのが決まりのようです。
知っていそうでよくわからない、「キリコ」の書き方についてご紹介します。
箱キリコは右に名前・左に進上または献灯
「箱キリコ」の場合、正面向かって右側面にお供えした人の名前、左側面に「進上」もしくは「献灯」と墨書きします。「箱キリコ」の正面には「南無阿弥陀仏」のお念仏や「先祖代々」と記されている物が多いです。
板キリコは裏面に名前のみ記入
「板キリコ」は、裏側にお供えした人の名前を記します。住所を書いてもいいそうで、実際奏している人もいるようですが、墓地は誰でも自由に出入りできるので、個人情報保護の観点からは、あまりおすすめできません。
金沢ではキリコを廃止する動きもある
先祖供養のしきたりとして、金沢で大切に受け継がれてきた「キリコ」ですが、「キリコ廃止」の動きが高まったことがあります。原因の多くは、送り火を焚いた後の「キリコ」の処理についてです。
送り火を焚いた後の「キリコ」は、以前はお寺でまとめてお焚き上げしていたのですが、ダイオキシンなど有害物質の発生が問題視されてからは、法律により野焼きは禁止され、使用済みの「キリコ」は、ゴミとして分別しなくてはならなくなりました。
伝統的な「箱キリコ」は、木を釘で打ちつけた枠に紙を貼って作られており、「キリコ」を破棄する際には分別が必要で、それに大変な手間とコストがかかることから、一部には「キリコ」を禁止するお寺もあらわれました。
「キリコ廃止」の動きを阻止するために考案されたのが、「板キリコ」です。分別の手間がかからず、廃棄に際してコストもあまりがかからない「板キリコ」は、「箱キリコ」にかわって金沢の伝統を守る救世主となりつつあります。
しかし、先述した通り、中にろうそくを立てることができないので、ご先祖様をお見送りする「キリコ」本来の役割を果たすことはできず、金沢でも「板キリコ」を巡っては賛否両論が渦巻いています。
金沢の伝統行事「キリコ」を後世に伝えよう
金沢のお盆のお墓参りに欠かせない「キリコ」。夕暮れに一斉に火が灯った「キリコ」には、ご先祖様を敬い慕う気持ちが詰まっています。金沢で生まれ育った人にとっては、忘れられない風景でしょう。
「キリコ」作成のための森林伐採、お盆の後に出る大量の廃棄物、ゴミの分別や廃棄にかかるコスト、送り火による火事の心配、違法な野焼きによる環境破壊など「キリコ」さまざまな問題が取り沙汰されています。
そして、「キリコ」と同じような問題は、日本各地で起こっています。古き良き伝統を今の時代にそのまま残すのは簡単ではありませんが、お先祖様を大切に思う「キリコ」は、ぜひともその気持ちとともに受け継いでいきたいものです。