アメリカのデトロイトの治安は悪い?現在は廃墟化したゴーストタウン?
デトロイトは、アメリカで最も治安の悪い都市と称される異質なエリアです。観光には向いていませんが、アメリカのリアルな歴史・文化を学べる興味深い街でもあります。デトロイトの現在の治安や、日本人がデトロイトを観光する際の注意点などを紹介していきます。
目次
デトロイトへの旅行は危険?知っておきたい治安状況
アメリカ合衆国の北東部にあるデトロイト(Detroit)は、アメリカ屈指の芸術文化の街として知られています。
1885年にオープンしたデトロイト美術館には様々な年代の芸術品が展示されており、ゴッホの自画像やディエゴ・リベラのフレスコ画などの名作を見るために年間100万人近い人々が同施設を訪れています。
また、デトロイトはヒップホップミュージックの世界的ラッパー・エミネム(Eminem)が幼少期を過ごした街でもあります。彼の類稀な音楽性の原点がデトロイトにあるため、ヒップホップファンにとってこの地は特別な存在です。
しかし、デトロイトはアメリカの観光旅行におすすめの町とはとても言えません。
SFアクション映画「ロボコップ」の舞台は犯罪都市と化した架空のデトロイトですが、現実のデトロイトも廃墟だらけのゴーストタウンであり、フィクションに引けを取らないほど治安の悪いエリアとして有名だからです。
そこで今回は、デトロイトの特徴や治安が悪い理由、デトロイトに行く際の注意点などをまとめてみました。アメリカへの旅行・移住を検討している方は、ぜひ参考にしてください。
アメリカのデトロイトとはどんなところ?
デトロイトは、アメリカ合衆国ミシガン州の南東部に位置しているエリアです。北アメリカの五大湖に属しているエリー湖とヒューロン湖に囲まれ、都市部では近代的な建築物とのどかな自然が広がっています。
1903年にアメリカの実業家であるヘンリー・フォード氏が自動車工場を設立したことを契機に、デトロイトは自動車産業によって大きな発展を遂げました。
フォード・ゼネラルモーターズ・クライスラーの3社がミシガン州に本社を構え、自動車産業従事者の多くがデトロイトに流入。最盛期の1950年代には、人口が180万人を超えるほどの栄華を誇っていました。
しかし1970年代に入ると、マスキー法(自動車の排ガス規制法)や米国車よりコストパフォーマンスに長けている日本車の人気台頭などの理由により、アメリカの自動車メーカーの業績が急激に悪化していきます。
関連企業の倒産や雇用者解雇が相次ぐと、潮が引くようにデトロイトの人口が減少。街は廃墟や浮浪者で溢れ返るゴーストタウンと化し、自動車産業によって栄えた街は見る影もないほど衰退してしまいました。
そして2013年7月には負債総額が180億ドルを突破し、ついに財政破綻を発表。その後は堅調に景気が回復傾向にありますが、現在でもなお治安の悪いエリアの存在は社会問題になっており、「アメリカで最も危険な都市」という汚名は払拭できていません。
外務省発表によるデトロイトの危険度
日本の外務省はホームページ上にて、海外の各国の現在の治安状況について詳しく解説しています。その情報を見れば、現在のアメリカのデトロイトは本当に治安が悪いのか、正確に把握できます。
外務省は世間の評判通り、「デトロイトは全米で最も犯罪発生率の高い都市の一つである」と警鐘を鳴らしています。FBIによって発表された2018年度のアメリカ犯罪率ランキングによれば、デトロイトは全都市の中で治安の悪い街ワースト2位の位置につけているからです。
前年度より犯罪率が13%減少しているとはいえ、人口10万人あたりの犯罪数は6,500件以上。これは全米の平均犯罪率より約40%も高い数値であり、16人に1人の確率で何らかの犯罪被害者になる可能性があることを意味しています。
ただし、外務省は「デトロイトの全てのエリアの治安が悪い」とは述べていません。
再開発の進んでいない地域は依然として治安が悪いものの、総領事館や在留邦人がよく訪れる場所(スポーツ施設や美術館などの周辺)は比較的安全であり、日本人が凶悪犯罪に巻き込まれたケースはほぼ皆無だそうです。
デトロイトの治安に関する正しい知識を学習し、しっかりと自衛意識を持っていれば、安心して現地に滞在・生活できるようです。
デトロイトの治安が悪い理由とは?
ここ数年のデトロイトの犯罪率は、緩やかな減少傾向にあります。しかし、それでも他の地域の犯罪率に比べれば圧倒的に高い水準にあり、殺人・強盗・性犯罪が横行する危険な都市であることに変わりはありません。
なぜデトロイトはここまで治安の悪い街になってしまったのでしょうか?デトロイトの治安が悪い理由を考察してみましょう。
人種差別暴動とデトロイト経済の悪化
現在のデトロイトの治安が悪い原因を歴史的に検証すると、1967年7月に発生したデトロイト暴動事件が引き金になっています。
当時、自動車産業によって栄えていたデトロイトには、労働力として多くの黒人が集められていました。低学歴の黒人の若者は低賃金で半ば奴隷のような扱いを受けており、搾取される黒人と郊外で裕福に暮らす白人という対立の構図が形成されていました。
そして1967年7月。警察が無許可営業の深夜酒場「ブラインド・ピッグ」の80名以上の関係者を一斉摘発した際、日頃から行政に対して不満を持っていた若者たちが警官たちに対して暴力行為に及び、大規模な暴動が勃発します。
このデトロイト暴動は7月23日から27日までの数日間に渡って繰り広げられ、鎮圧のために陸軍州兵が召集されるほどの事態になります。
その混乱の最中、アルジャーモーテルに滞在していた無関係の黒人の若者たちが、人種差別主義者の白人警官によって理不尽に殺害されました。
事件の経緯が公になると、黒人と白人の軋轢は修復不能なほど深刻化。結局、40名以上の死者と3,000万ドル以上の経済損失、そして強い遺恨が残り、栄華を極めたデトロイトの崩壊が始まっていきます。
廃墟が増えゴーストタウン化
デトロイト暴動を切っ掛けに、黒人達の報復を恐れた白人は一斉にデトロイトを離れていきました。その上、アメリカの自動車メーカーの業績悪化も重なり、自動車産業で成り立っていたデトロイトの街は次々と廃墟化していきました。
職を失った浮浪者やギャングとなった黒人の若者達が廃墟に住み着くと、その一帯は法律の及ばないゴーストタウンと化していきます。
廃墟化したゴーストタウンを根城としている人々は独自のコミュニティーを形成しており、もはや行政が安易に立ち入ることが出来ない状況が現在でも続いています。デトロイトで反権力的なブラックミュージックが育まれたのには、こうした悲劇的な経緯があるのです。
現在は少しずつ景気が回復している?
2013年7月の財政破綻後、デトロイトの景気は着実に回復しています。
トランプ大統領の進める経済政策により、国内工場の雇用が拡大。一時30%近かった失業率も、現在では5%程度にまで戻りました。安い地価を武器にスタートアップ企業の誘致も進められており、街には活気が戻りつつあります。
まだまだ治安の悪い地域は残っていますが、「カムバック・シティ」として今後の発展に期待を寄せられています。
デトロイトのエリア別治安状況
かつて廃墟だらけでゴーストタウン化していたデトロイトの街は、再開発によって目覚ましいほどの復活を見せています。
しかし、全ての地域に社会保障が行き届いているわけではなく、治安の悪い地域の問題が完全に解消されているわけではありません。ここでは、デトロイトの現在の治安状況をエリア別に見ていきましょう。
ダウンタウン
カナダとの国境付近にあるデトロイト川周辺のエリアは、MLB所属チーム・デトロイトタイガースのホームグラウンドであるコメリカ・パークや、NFL所属チーム・デトロイトライオンズのフォード・フィールドなどがあるダウンタウン(繁華街地域)です。
日中はたくさんの人で溢れ返り、比較的治安が安定しています。廃墟だらけのゴーストタウンエリアと違い、安心して生活できます。
ただし、夜間になるとガラの悪い連中が集まるため、強盗や発砲事件が発生する恐れがあります。深夜帯の外出は控えましょう。
ミッドタウン
ダウンタウン北部のミッドタウン(住宅地区と商業地区の中間的エリア)には、デトロイト美術館やオシャレなレストランなどが立ち並んでいます。
廃墟だらけのゴーストタウンだった町並みから大きく復興を遂げた地域であり、現在では治安も回復傾向にあります。
ただし、大通りから外れた人通りの少ない裏路地では、日中でも凶悪犯罪が発生しています。夜間はもちろんのこと、明るい時間帯でも一人歩きは避けた方が良いでしょう。
デトロイトの治安が悪い理由とは?
現在のデトロイトは廃墟だらけだったゴーストタウンの頃から復興を遂げており、日本人でも観光旅行は可能です。
しかし、バーモント州やバージニア州などの人気観光地に比べると治安が良いとは言い難く、注意が必要であることに変わりはありません。
ここでは、デトロイトを観光する際に意識すべき5つの注意点について解説していきます。
高価なものは身に着けない
一つ目の注意点は、外出時に高価な装飾品を身に付けないことです。
デトロイトには、現在でも職に就けず生活に苦しんでいる方が少なくありません。そういう人たちにとって、高額の装飾品をまとった日本人は絶好のターゲットです。「こいつは大金を持っていそうだ」と思われたら、強盗の標的にされてしまいます。
ネックレスやブレスレットなどのアクセサリーは、建物の中に入ってから付けた方が良いでしょう。
危険な地域へは行かない
二つ目の注意点は、怪しい場所に近づかないことです。
景気が回復してきているとはいえ、現在でもデトロイト内には廃墟だらけのゴーストタウンエリアがいくつも点在しています。
何となく雰囲気が暗い地域、ホームレスが多いエリアには、極力立ち入らないでください。現地在住のアメリカ人でも避けるような場所に日本人が踏み込んできたら、敵とみなされて攻撃される恐れがあります。
路地裏へは行かない
三つ目の注意点は、興味本位で知らない場所に一人で行かないことです。
大通りから外れた路地裏がギャングの溜まり場になっていることもあり、建物の奥に引っ張り込まれて暴行される恐れがあります。
歩きスマホはもってのほか。外を歩く際には、常に周囲を警戒する癖を付けましょう。
夜は出歩かない
四つ目の注意点は、夜間帯の外出を控えることです。
デトロイトの凶悪犯罪の多くは、深夜から未明の時間帯に発生しています。繁華街エリアでも、深夜は閑散としていて一人歩きは危険です。
日没後は道草しないで、早めに宿泊所に戻りましょう。
安いホテルは利用しない
五つ目の注意点は、セキュリティレベルの低いホテルを利用しないことです。
海外旅行のコストを抑えるために安いモーテルに泊まる方がいますが、デトロイトでは絶対に避けてください。古いタイプのドア鍵は簡単に開錠されてしまうため、夜寝ている時に部屋に押し入られる恐れがあります。
デトロイトでは、安全への投資をケチらないようにしましょう。
デトロイトに行く際は治安の悪いエリアに注意しよう
今回は、デトロイトの治安が悪い理由やエリア別の現在の治安状況、デトロイト旅行時の注意点などを紹介いたしました。
かつて廃墟だらけのゴーストタウンだったデトロイトも、近年では再開発が進んで市民の生活水準が改善しています。しかし、現在でもなお治安の悪いエリアが多いので、現地に行く際には細心の注意を払った方が良いでしょう。